本作を2度、3度…とお楽しみいただくために、イタリア文化に精通し、本作の字幕を担当されパンフレットにもご寄稿いただいた岡本太郎さん(ライター・翻訳家)による『シシリアン・ゴースト・ストーリー』徹底解説。(※本文は、2018年12月6日(木) ユーロライブ にて開催した一般試写会の上映後Q&Aより)
Q.本作は1993年に実際にシチリアで起こった”ジュゼッペ・ディ・マッテオ少年誘拐監禁事件”というイタリア全土を揺るがせたショッキングな事件をベースに制作されたが、この事件について
A.日本ではあまりこの事件は知られていないと思います。まず、イタリアの背景について説明します。イタリアは組織犯罪が盛んで、マフィアという組織があり、『ゴッドファーザー』など様々な映画にも登場します。イタリアはマフィアが有名で、もともとはイタリアの南部、シチリアでマフィアは生まれたのですが、徐々に勢力を拡大し、今は政財界に結びついているという背景があります。シチリアはマフィアを生みましたが、それを踏圧するために北の方からいろいろな人が送られたのですが、みんな殺されていて。それに加担したマフィアの一人が、この映画の主人公・ジュゼッペの父親のボスだったということです。ジュゼッペの父が警察に捕まり、司法取引がされるのですが、仲間たちの情報を流す代わりに刑を減軽してもらうという取引をしていました。その警察に捕まったジュゼッペの父を黙らせるために、息子を誘拐したということなんです。
これは監督が言っていたのですが、監督たちは二人ともシチリア出身ということで非常に衝撃を受けて、でも事件から20年以上が経って、シチリアでもこの事件のことを知らない人がいたりして、この事件のことを忘れて欲しくないという思いで撮ったと言っていました。
Q.なぜ、街の人たちは口をつぐみ、あそこまで見て見ぬふりをするのか、報復を恐れているのでしょうか?
A.イタリア人のイメージとして、明るくて陽気でおしゃべりというイメージがあると思いますが、シチリアの人に関してはあまり話さない、何か訊かれても黙ってしまうというイメージがあります。特にマフィア関係に関しては見て見ぬふりをするという文化があり、だから、みんな見て見ぬふりをするということがあります。
Q.ナポリのマフィアと、シチリアのマフィアの違い
A.ナポリの方はおおっぴらに豪華な暮らしをしていますが、シチリアの方はボスになっても潜伏して、この映画に出てくるような廃墟のようなところで生活していたり、力は持っているのに享受していないと言っていました。だから、こういったひどいことができるのかもしれないです。
Q.キャラクターたちについて
A.ジュゼッペに関しては実際の人物をもとに描かれていますが、その他のルナや友達に関しては監督たちが作りだしたキャラクターです。
Q.監督がオーディションで見つけ、本作が映画初出演となった主人公の二人について
A.ジュゼッペ役のガエターノ・フェルナンデスは、とても整った美しい顔をしているのに、声がちょっと涸れていて、とつとつとした話し方が、逆に素朴な感じがして良かった。ルナ役のユリア・イエドリコヴスカは、イタリア人から見ると明らかにイタリアの顔ではないし、ルナという名前も伝統的な名前ではなく、異邦人的な、異端児的な印象を抱かせる。ユリアはポーランド生まれで、3歳の頃からシチリアで暮らしているので言葉はばっちりシチリア訛りですが、なぜこの顔でシチリア語を話しているのだろうと違和感を抱かせます。
Q.撮影監督のルカ・ビガッツィについて
A.今、イタリアでナンバーワンの撮影監督です。イタリアはフェデリコ・フェリーニや先日亡くなってしまったベルナルド・ベルトルッチなど有名な監督も多く、ヴィットリオ・ストラーロなど優れた撮影監督もいるのですが、ルカ・ビガッツィは名実ともに、今その筆頭と言えるでしょう。ルカの映像の特徴としては透明感がある。そして、一緒に組む監督によっても変わるけど、とても詩的で叙情的な映像がとてもうまい。だから、水や森といった自然や、幻想的な雰囲気の漂うこの映画によく合っていました。
〈観客からの質問〉
Q.映画の所々でフクロウが登場しますが、何かを意味していたり、また何かを象徴していたりするのでしょうか?
A.フクロウが夜の鳥という意味もあるとは思いますが、死と生の世界をつなぐ使者という意味が込められていると思います。ジュゼッペがルナに、フクロウを通じてメッセージを伝えているのではないでしょうか。
Q.字幕を担当されたそうですが、お気に入りの訳のシーンは?
10代のティーンエイジャーの言葉を訳すのが楽しかったです。あと、訳していて感極まってしまったのは手紙の部分。特に、ルナの手紙をジュゼッペが2度目に読むシーンの“いつも夢見てる”というところに感動しました。
岡本さんから一言
この映画を初めて観たときは、どういう話かは知っていたのですが、すごい衝撃を受けて。見終わってすぐは衝撃が強すぎて受け止められなかったけれど、何回も観るうちに、観るほどにすごくいい映画だなと思います。この映画は”反マフィア”の映画ではなく、ジュゼッペに自由を与えたかったという気持ちが一番強く表れていて。
あと、ルナと仲良くなる男の子が面白いことをセリフで言っています。「この不法建築がなくなって自然が復活して、昔の美しい世界が蘇ったらいいのに」みたいなことを言っていて、自然も映されているし、そういうメッセージも含まれた映画だと思います。